「じゃ、今日の買出しはおっさんに決定ー」
青年の声が宿屋に響くとともに、仲間達はバラバラと各自自由行動に移っていた。
「はぁ、」
なんで、グーを出さなかったんだ俺は。
大きく開いたままの手を見つめてから、がっくりとわざとらしくうなだれた。
しかし、そうしていても仕方ないので、先ほど少年がなんとも良い笑顔で渡してくれた買出しリストを確認する。
・・・多くない?
くそぅ、こんないたいけなおっさんをこき使って!
年寄りは大切にしなきゃなんないのよ!
口を尖らせながら、重い足取りで街中を歩く。
えーっと、アップルグミ、オレンジグミにシールボトル、食材もかよ。あとは・・・・
リストを見てますます気分が重くなってきた。
なんだって今日はこんなに不運なんだ。せっかく、久々のハルルでおいしい酒でものんびり飲もうと思ってたのに!
ああ、ここにがいれば少しは・・・
「なーにぶつぶつ言ってるの、レイヴン?」
ほら、幻聴が聞こえた。
過労なんじゃないかしら。おっさん。
「ちょっと、レイヴン?無視ですかー?」
「え?あれ?本物?」
「頭打った?」
あ、おかしいのはもとからだもんね。ごめんごめん。
そんな事を言いながらは俺の隣をすたすた歩く。
「むー。その言い方はひどいんじゃないの?おっさん嬉しくて幻聴かと思ったんだから」
「じゃあ、もっと嬉しそうにしたらいいのに」
そんなこといわれても、びっくりしたんだからしょうがない。
「今日は魔導士少女と一緒に術の勉強するって言ってたじゃない?」
「んーなんかね、気になる事があるから勉強はまた今度って」
「あらら、フラれちゃったの?」
「おっさんと一緒にしないでください」
ぷく、と頬を膨らませる姿が、ますます愛らしい。
「せっかく可哀想なレイヴンの買出しに付き合ってあげようと思ったのに、私は要らないみたいですネ。そうですか。じゃあ帰ってエステルにお話でも聞かせてもらいますー」
「あ、ちょっと待って、ごめん、すいません、置いてかないで!」
棒読みで言い切った彼女が宿屋へ帰ろうとしたので慌てて手をつかんで止めた。
「なーに?」
「付いて来てくれて嬉しいです。一緒に買出しに付いて来て下さい」
「よろしい」
言って、 はにこっと笑った。
花のような笑顔とはきっとこれをいうのだろう。
俺も思わず頬が緩んでしまって、ああ、ほんとうにどうしようもないな。
でもこの可愛い愛しいが笑顔でいてくれるならもうなんだっていい気もするんだ。
なんて10以上も年下の女の子に、もう末期か俺は。
「さて、さっさと行きますか」
「レイヴン」
「なーに?」
「・・・手」
俯く彼女の視線の先には先ほどから掴んだままの手。
ほのかに顔が赤いのはこういうことに慣れていない彼女だからだろう。
本当に可愛いわね。もうこのまま宿屋に帰って一緒にすごしてそれから夜まで一緒にいて(いや、朝までか)食っちまいたい。と思う変態な考えを頭の隅に押しやった。
「ま、今日はいいじゃない。せっかくのデートなんだし」
「でっ・・・」
「違うの?」
「・・・」
「じゃ、レッツゴー」
恥ずかしそうに俺の手を握り返す の頬がハルルの花びらよりも桃色に染まっていた。
手繋ぐだけでこれじゃあ、先へ進むのはまだまだかな。
Birds of a feather
それは、への言葉ではなく。
食べてしまいたいとか思っている俺の頭の中とは裏腹に、同じくらい頬が染まっているであろう自分自身への言葉である。