「あ、リーバー君。入って入って〜」


コムイ室長に呼ばれて、また変な発明の自慢かなんかだと思いながら訪れると、どうやら違ったようだ。
ノックをしてから室長室に入ると、そこには部屋の主と小さな影。

誰だ?と思って見ると、見たことのない少女だった。
アイコンタクトで室長に「誰すか?」と聞くと、にっこり笑って少女を俺の前に移動させる。



「この子、今日から科学班の助手だから」

「はぁ・・・はぁ?」

「はぁ?って!上司に向かってなんてこと言うんだい!」

「聞いてないんすけど」

「言うの忘れてた☆」


いつも通りいい加減なシスコン野郎に、言い返す気力もなく、はぁ・・・とため息をつく。
こちとら徹夜2日目なんだよ。眠ぃーんだよ・・・!目がしょぼしょぼするんだよ・・・!!
そんな俺の苦労を知ってか知らずか、(いや絶対知ってる)コムイ室長は少女の肩に片手を置いて「ほら、自己紹介」と促す。

緊張しているのだろうか。
少しとまどいながらも少女は礼儀正しくお辞儀をして、俺の目を見た。
教団には珍しい深い黒色が俺の目をとらえる。


です」

、か。俺はリーバー・ウェンハム。科学班班長だ」


正直室長への怒りは収まってないが、別にこの子に罪はない。
眠気と怒りのせいで少しより気味だった眉から力を抜き、笑顔で緊張しているだろう彼女に挨拶をした。
すると安心したのか、彼女は「よろしくお願いします」とにこりと笑う。・・・普通に可愛い。


「おう。よろしくな」

「はい、握手握手〜」


室長に促されるままに、小さな手を握る。

うお、マジで手ぇちっさいな。ふにふにして柔らかくて女の子の手だ。
爪もちっさいし、きゅっと力を込められて少し汗ばんだ。
約9.9割が男の科学班で毎日過ごしているため、心臓が無意識に反応する。

・・・まてまてまて、は子供だぞ。俺にそんな趣味はない!



ちゃんは日本人なんだ」


室長がコーヒーをすすりながらについて説明する。

なるほど、神田を思い出させる黒髪とくりくりとした黒眼。
東洋の雰囲気を纏わせているが、室長やリナリーとはまた違った感じがする。
それに加えて幼い顔立ちだが、歳はアレンたちと同じくらいかそれ以下だろうか。
うーん、日本人はわからん。

きょとん、と俺を見つめるになんだか気恥ずかしくなって目線を室長に変えた。



「で、助手って一体・・・?」

「ああ、ちゃんのお父さんが僕の知り合いなんだけどさ。今度から危険な仕事になるからここで働かせてくれってね。
 書類とかは出来ないけど、掃除とか整理とか諸々」


前からそういう子欲しかったからさー。

確かに、この前の引っ越しから班員も増えたし、いちいち倒れた奴を他の奴が介抱していたら仕事が進まない。
それにお世辞にも綺麗だとはいえない一班の机周りを片づけてくれるんなら、これはありがたい。

人差し指をたてて説明する室長にふんふんと頷いた。



「で、リーバーくん。ちゃんに教団内を案内して欲しいんだけど」

「・・・わかりました。じゃあ、室長は仕事しといてくださいね」

「え!?・・・あ、じゃあ、僕がちゃんを案内するから・・・」

「うーし、行くぞーー」

「え、あ、あの・・・」


戸惑うの両肩を掴み、扉の方へ向かう。
僕が行く!と騒ぐ室長にため息をつき、最終手段を口にした。


「あ、してなかったらリナリーに言いつけますんで」

「ぐうぅっ、リーバーくんの鬼ー!悪魔ー!!」


よし。これで数時間はちゃんと部屋にいてくれるだろう。
・・・これでも数時間、か。


「あの、いいんですか?」

「いーっていーって。いつもあんなんだから」


困ったように聞く慣れていないに、大丈夫だと笑って案内を始めた。

まぁあれが上司だったら誰でもそうなるよなぁ。
しっかりして欲しいもんだ。











「・・・で、ここが食堂で、向こうの廊下行けば資料室・・・・大丈夫か?」

「お、覚えられないです・・・」

「はは、広いからなぁ。ま、ゆっくり覚えればいいさ」


先ほど室長に渡された(奪い取った)教団内の地図をに渡す。
とりあえずは自室と科学班と食堂さえ覚えてれば生きていけるから。と付け足すと、は一生懸命に地図を見ながらふんふんと頷いた。



「しっかし、その歳でいきなり住み込みの仕事は大変だよなぁ」


アレンやリナリーを考えるとそうでもないかもしれないが、彼らはエクソシストで、幼い頃からいろいろ経験をしてきている。
だからといって大変じゃないわけじゃないし、俺らなんかよりずっと修羅場をくぐってきているのだが、
今まで普通に暮らしていたのような少女がぽんっと放り込まれる職場でもない。

室長によると、の父親も一応は教団と関係のある仕事らしいが、彼女はあまり関わってこなかったらしい。
現場ではないにしろ戦争とかAKUMAとかに関する仕事をするのはキツいだろうな。



「はい?」


地図から目を離して、が首をかしげた。

あれ、聞こえなかったか?
思ってもう一度同じことを繰り返すとが途中で「あの・・・」と申し訳なさそうに口を開く。



「ん?」

「リーバー班長。私、もう20歳越えてます・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・え!?」



一瞬では理解できなかったの言葉を頭の中で繰り返しやっとのことで把握する。

いやいや、ちょっとまて。は、20歳・・・が・・・!?
驚いたが、通りで振る舞いが大人っぽいし言葉遣いが綺麗だと納得した。
は申し訳ないというか、少し悲しみも込めた表情をして曖昧に笑う。や、やってしまった!



「す、すまん!」

少女ではない。女性だった。
いくら部下だとしても、初対面の、しかも女性の年齢をとやかく言うなんてなんて失礼なことをと頭を下げる。


「いえ、いいんです。日本人ですし・・・幼く見えるのわかってますから」

「いやでも・・・」


ああ、これだから男ばっかりの職場は困る。
慣れてないので、こういうときになんて言えばいいのかわからん・・・!
アレンやラビならうまいこと言って女性を喜ばすことが出来るのだろうかと、情けなくも年下の彼らを思い出す。

とにかく謝ることしかできないと思い「悪いっ」と両手を会わせて許しを請う。

しかし、焦る俺が面白かったのかは腕で口を押さえてくすくす笑った。
その眉を下げておかしそうに笑う彼女に、安心する反面またも心臓が反応する。



「ところで、いくつくらいに見えたんですか?」

「・・・14、5くらい・・・」

「・・・せめて18とかがよかったです」

「あ、すすすまんっ」

「ふふ、冗談ですよ」


これからは気をつけよう。と心に誓ったばかりなのに、もう一度失態を犯す。
誤りながら、ちらりとをもう一度見た。まだくすくす笑ってる。

ああ、なんか、うん、



・・・・か、可愛い。


が大人と言うことには驚いたが、俺の心臓は合法に反応してくれていたのかと少し安心する。
顔を片手で覆って笑うの笑顔は、ラビではないが・・・完全に、俺の「ストライク」だ。




うし、今なら5徹もいける気がする。






 

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