「・・・これは、やばい」


はやく対策をたてなければ、と寝床で貴重な睡眠を取らずに私はうんうん悩んでいた。
悩みの種は毎度のことリーバー班長なのだが、これは初めて気づいた悩みだ。

それは書類の整理をしているとき。
机の向こう側を通ったリーバー班長にちゃんす!と思って声をかけようとした。
しかし声をかける一瞬前に、班長は別の班員に呼び止められ仕事の話を始めたのだ。


問題なのが、その班員が女性だったこと。そこで、私は気づいてしまったのだ。


もしかして、先を越される可能性もあるのか・・・!

科学班には女性が極めて少なく、失礼かもしれないが皆色恋沙汰とか少なそう!と勝手に思いこんでいた私です。
・・・本当に失礼だなこれ。
とにもかくにも、科学班に少ないながらも女性がいて、そしてリーバー班長はかっこいいという事実は変わらないのだからこれはゆゆしき事態である。

今回は私も仲のいい班員さんだったし、お仕事の話だったから嫉妬も何もあまり感じなかったが、対策は十分に必要だ。



さて、どうしようか・・・




・・・・・・・









「・・・・・はっ、寝てた・・・!」




・・・まぁ夜遅かったし貴重な睡眠なので、それはいいとしよう。うん。
もぞもぞ起き上がり服を着替える。

さって、仕事しながら考えようそうしよう。




そもそも、リーバー班長をほかの子が好きになるならいい。いや、全然よくないけど、それならまだ私にも望みがある。

でも、リーバー班長がほかの子を好きになる可能性だって十分あるんだよ!
・・・あああ!それは考えるだけ辛い!泣きそう!

リナリーにこの前相談したら「ないない」と笑っていたがわからないじゃないかそんなの。
いくらお仕事付けの毎日でもリーバー班長だって男の人だもん。
むしろもういるかもしれないじゃないか。皆が気づいていないだけで。

・・・それが私だったら大歓喜なんですけどね。たぶんどこかが爆発するくらいうれしいんでしょうけどね。

それとなくジョニーさんに聞いてみたけどお付き合いしている人はいないらしい。
でも安心している場合じゃないんだ。

だって、恋って突然起こるものだもの!私みたいに!!




「ね!リーバー班長!!」

「・・・何がだ?」



とりあえず目の前にいた班長に同意を求めると、怪訝な顔をされた。

まぁそりゃそうですよね。








「・・・告白、しかないよね」


少し肌寒い書庫の中。

班員さんに頼まれて、本を探しにきたのだ。リストに並ぶ本を探して手に取っていく。
そんな時、私の頭の中ではリーバー班長をどうするかの結論をたたきだしていた。
というか遙か昔にリナリーに叩きつけられた結論しかでてこなかった。

確実に班長のずっとそばにいるには、もっと近くに行くには、それしかないらしい。


・・・リスク伴いすぎだろう。告白よ。

だって告白したら最後、天国か地獄だよ。
リナリーの言うとおり班長に限って告白したら私を嫌いになるとかないと思うけど、不安は不安だし、やっぱりよそよそしくはなるかもしれない。

ふとディグリオさんを思い出して、何ともいえない寂しい気持ちになる。
でも、話せなくなる訳じゃないんだし、挑戦してみようかな。
リナリーが言ってたみたいに、意識してくれるようになるかもしれないし・・・!

あああ、でも絶対緊張する!!心臓が壊れる!!


でも勇気を出すんだ私!!
リーバー班長に嫌われていない自信はある!
だってご飯一緒に行ってくれるもの!

そういう意味で、す、好かれてる自信は・・・あんまし、だけど。
でもでも・・・




寒い書庫は私の火照る体を冷ましていってくれる。


・・・よし。
冷静に、テンパらずに、告白しよう。

大丈夫、大丈夫・・・!


この本全部とったら、机の掃除して、コーヒー入れて、レモンソーダを班長に持っていって、
ついでにその中に成功できますようにとおまじないして、人が少なくなったら呼び出そう。



なんて言おうか。

ずっと前から好きでした。でいいんだろうか。それとも前置きも考えようか。


・・・いや、やっぱりストレートに言おう。

ディグリオさんに言われたとき、やっぱりうれしかった。
「好きです」だけで、真剣さも、緊張も、全部全部伝わったし、きっと一番いい言い方だと思う。
うじうじしてたら相手もイライラするしね!すぱっとね!





「ぃよしっ!私はやる!」

「何をやるんだ?」

「リっ!?うわ、わわわっ!?」

「おいおいおい!」

ジャストタイミングでひょこっと現れたリーバー班長に驚いて、手に持っていた本を全部落とした。足に。
「〜〜〜っ!!」と悶絶していると、班長が私の足の上に乗っていた本をどけてくれる。


「ちょ、お前「リっ!?」って、くく・・・っ」

「うう・・・こ、小指に・・・っ!」

「あーあー、ほら、立てるか?」


私の反応に笑いこらえてから、「悪かったな、驚かして」とこちらに手を差し出すリーバー班長。
少しむっとしたけど、それに甘えて大人しく彼の手を取った。

うわー!嬉しい!痛いけど嬉しい!
っていうかさっきの口に出してなかったよね!聞かれてなかったよね!
・・・き、聞かれてた方が言う勇気なくてすんだけどね。

でも、やっぱり面と向かって言わないと。



「こんないっぺんに持つから・・・ってか、この量はあいつらも頼みすぎだろ・・・」

「・・・・・」

「おい、?えっと・・・どうかしたか?」



もしかして、これはチャンスではないだろうか。

誰もいない書庫に二人きり。

ぶっちゃけわざわざ呼び出すにも勇気がいるし、周りの目も気になるし、何より忙しい班長の時間をとるのは申し訳ない。



おまじないも心の準備も出来てないけど・・・!

ええい、女は度胸!!



「・・・り、リーバー班長!」

「お、おう?」


勢いをつけた私の口調に班長は、何事だ?と返事をする。
ああ、今ならディグリオさんの気持ちが分かる気がする。

無駄に力はいるし、心臓壊れそうだし、おなかがうずくし、相手の目が見れない。
どくどく脈打つ心臓の音が耳まで届く。
きっと班長まで聞こえてるよこれ。


?」


しびれを切らしたように、班長が私の名前を呼ぶ。


大丈夫大丈夫。いや全然大丈夫じゃないけど、大丈夫!!
言え!言っちゃえばこっちのもんだよ!いやもう意味が分からない!!


「班長っ」

「お、おお」


大きく深呼吸をして、リーバー班長の蒼眼を捕らえる。
いつもながら、きれいな青だ。


・・・・よし。




「わた、私、リーバー班長のこと、好きです」




・・・言った!言ってやった!!でも噛んだ!私のバカ!!

今すぐここから逃げ出したい気持ちだが、扉は班長の後ろだし、まず足が動かない。
ぎゅうっと服の袖を掴んで火照った顔を床に向ける。
早く!なんでもいいから早く班長!

私の言葉からたっぷり5秒後に、班長は「へ?」と声を漏らした。



「・・・・・・ええ!?」


それからリーバー班長は私にもわかるくらいに顔を真っ赤にさせて、目を見開いた。

何ですかその反応。期待してもいいんですか。それとも慣れてないからですか。どっちですか。

不安と期待で胸がいっぱいになって、うまく息が出来ない。

班長は右手で口を覆って、少しの間目をそらして何かもごもご言っていた。
その後に、まだ手の甲で口を押さえて、視線を上げた私を見る。




「あ、いや、おま、・・・マジで?」


「はい」


「その・・・その好きは、そういう、好きって受け取ってもいいのか?」


「・・・は、はい」



こくこくと頷いて肯定を表す。
するとひとつ間をおいて、リーバー班長がぐんと私に近づく。
事態が飲み込めぬまま固まっていると、目の前が真っ暗になって、班長の香りが私を覆った。


「・・・ははは、はんちょう!?」

「やべぇ、ちょっと待って。たんま」


たんまは私のほうなんですけど!!
なんだこれなんだこれ。
なんだこれって班長が私に抱きついてるんですよ。胸板広い。

・・・じゃなくって!!

頭がパンクしそうです。死にそうです。幸せすぎて。
夢か!夢なんかこれ!!夢オチか!?



「・・・すっげー、嬉しい」

「・・・まじですか?」

「まじです」


リーバー班長がぽつりと呟いた言葉に、現実へと引き戻された。
聞き返すと、班長はぎゅうっと力を入れて頷く。

それから「すまん。急すぎた」と言って私を離して、でも肩から両手は離してくれなくて、真剣な顔で私を見る。





「俺も、のこと好きだ」




ほんとうに、もう、夢じゃないですよね。

幸せそうにはにかむ班長に、自然と涙がぽろぽろこぼれる。

嬉し泣きって初めてかもしれない。
本当に嬉しすぎると涙がでるんだ。初めて知った。


涙でリーバー班長の顔が歪む。

でも班長がすっごい笑顔だってことはわかった。




「ごめんな。俺から言おうと思ってたんだけど、勇気なくてな」


申し訳なさそうに涙を親指で拭ってくれる班長の言葉に、ぶんぶんと首を振る。
そんなのいいですよ。本当に嬉しいんです。

班長が、リーバー班長が私のこと好きなんて、幸せすぎてどうしたらいいかわからないくらいなんです。



「大好きだ、。愛してるよ」

「は、はんちょおぉ」

「はは、ひどい顔だぞ」


誰のせいだと思いながらも、そのまますっぽりと班長の胸に納まった。
そっとくたびれた白衣を掴んで、目をつむる。涙が白衣ににじんだ。

あったかい。安心する。

班長がぐりぐりと私の頭に顔をすり付けてきた。



「り、りーばー、はんちょう。ひげ、痛いです」

「今まで我慢してたんだ。もう無理」

「・・・私だって、もう無理ですよ」

「ああ、存分に甘えてくれていいから。お前に言わせちまった分、俺が愛してやる」



班長は、恥ずかしい台詞をさらさら吐く。

普通に「愛してる」とか言えないよ!恥ずかしいよ!
この腕の力と言い、もしかして班長はあれだろうか、草食系男子ではなかったんだろうか。

まぁどっちにしても班長が好きな私にはどうでもいいことだ。


・・・やっぱり、少し恥ずかしいけど。







、大好きだ」

「・・・はい」

「愛してんぞ」

「・・・はずかしいから、あ、あんまり言わないでください」

「可愛いなぁ、は」

「班長!」

「んー?」

「・・・私も、あ、愛して、ます」

「・・・!好き、やばい、おまえもうやばい」

「わ、わかったから離してくださいいい!」





リミッターの外れた班長は、これからいっぱい私を愛してくれるのでした。



でも、それはまた別のお話。






 

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