最近、なんだかおかしい。


コムイ室長の逃亡癖も、連日の徹夜も、死にかけの班員たちもいつもどおりなんだが。


がおかしい。

いや、がおかしいというかを見ると俺がおかしくなる。といった方が正解か。



ぱたぱたと白衣をたなびかせるに、無意識に目がいくのはいつものことなんだが(それはそれで異常だというのは承知している)、こう、なんか・・・どきどきする。

26歳の・・・もうすぐ27歳か。
そんな大の男がこういう言い方も気持ち悪いかもしれないが、あいつがそばにいるとすっげー緊張するし、動悸も早くなる。
なのにそばにいないと、近くにいたいと思う。


病気だ。

病気ではないが、これは病気だ。




・・・ああ、もう勘弁してくれ。

は部下で、妹みたいな奴で、きっとも俺のことを兄のように慕っていて、だからこれ以上はやめようと思ったのに。
全然コントロールがきいてくれない感情にもどかしさを覚える。


今現在も、書類確認のために俺の持っている書類をのぞき込んでいるを無意識にじっと見つめていた。
長い睫とか、今日は髪をくくっているからうなじとか、小さい手とか、唇とか。
さっきから意識しまくってもうどこに視線を向ければいいのかわからない。


「班長?」

俺のさまよう視線に気がついたのか、がふと顔を上げた。
急にと目があって、またも心臓がどくりとうずく。


「はんちょう?」

「あ、い、いや、今日は、髪の毛くくってるんだな」

「はい!最近暑いですから」

俺の様子を伺うようにのぞき込んできたと視線をはずし、それとない会話を必死に見つける。
よし。何事もなく切り抜けた。多分。

その後もなんとか書類確認の作業を終えて、自分の席に座った。



「はぁ〜・・・」


が科学班に勤務して何ヶ月になるだろうか。

気にかけるようになったのは、出会って確か二週間ほどたったくらいからだ。
いやそれよりも前から気にはかけてはいたが、目で追い始めたのはそれくらいの時期だったと思う。


いつも明るくて、元気に走り回って、班員たちを気遣って。
毎日毎日あいつの笑顔を見ているうちに、だんだんと惹かれていった。


そして、この感情が本気なんだと気がついたのは、つい先日。
状況としては本当に好ましくないが、ディグリオとが夜に二人きりで会っていたあの夜。

泣きながらはにかむと、ディグリオの穏やかな笑顔が忘れられない。



あの後は本気で落ち込んで、しばらくそこから動けなかった。

それから、俺が本気でを好きだったのだと自覚した。

これからが俺を見てくれなくなるのだと思うと、胸が痛いほど締め付けられた。




しかし、次の日になってみるとはいつもと変わる様子もなく、あの笑顔で俺に飲み物を持ってきた。

わからないことがあると、俺の後ろをついてきた。

ご飯に行きましょうと、飯を食っていない俺を食堂へ誘った。




「・・・なぁ。お前、いいの?」

「はい?何がですか?」


俺と一緒にいていいのか?とはさすがに聞けなかったので、遠回しに聞いてみた。
だが、はけろっとした顔で、頭に疑問符をとばしている。



―これは、つき合っていないということか?


そう思い始めたのは、食堂へ誘われたときだ。
飲み物とかは、俺が科学班班長である限り十分ありうることだが、いくらなんでも彼氏がいて他の男と二人で食事はしないだろう。
・・・男として対象外として扱われていない限り。
ああやって二人で飯を食いに行くことは多いし、が俺に少なからず俺に好意を抱いてくれていると思っていいと思う。

というより、こうやって推測するより「ディグリオとつき合ってんのか?」と普通に聞ければいいのだが、に真正面から頷かれるとしばらく立ち直れそうにない。
そこに頷きとともに満面の笑顔とか頬を染めるとかオプションもついてきそうだし。

あ、ちょっと落ち込んできた。
やめようこのマイナス思考は。


ともかく、二人が仕事以外で話しているのも最近見かけない。
他の班員と同じように接するから、俺の勘違いであったと9割方確信した。

とディグリオがあの夜何を話していたのかは気になるが、今の俺とってが誰ともつき合っていないという事実だけで十分だ。








「・・・って十分じゃねぇよなぁ」



ぎっと、背もたれに寄り掛かって深くため息をついた。

あんだけうなじとか手とか唇とかみて、可愛いなあとか思いながら、触りたいと思わないわけがない。十分なわけがない。
自分が肉食系だとは思わないが、に限っては全部が欲しくなる。



がそばにくると思わず抱きつきたい衝動に駆られる。

あいつ小さいからな、俺の胸にすっぽり収まるなぁ。
ジャストサイズかもしんねぇな。抱きしめてぐりぐりしたい。
「もー、いたいですよ」といいながらクスクス笑うも俺の背中に腕を回して、ぎゅーとかしてくれたら最高だ。
身長差があってキスはしにくいかもしれんが俺が屈めばいいことだし、問題ない。


・・・いや俺の妄想は問題ある。




「リーバーはんちょー、さっきの書類なんですけど・・・」

「うお、っとおおおっ!!」

「はんちょう!?ちょ、大丈夫ですか!?」


「いっつー・・・だ、いじょうぶ、だ」


椅子から落ちた。金属性なのででかい音を立て、椅子も倒れた。
目の前には俺を心配する
幻じゃなくて俺の妄想でもなくて本物だ。

は、恥ずかしい・・・っ



「寝不足ですか?限界になる前に休んでくださいね」

「おう・・・」





お前のせいだっつの。

心の中で理不尽な悪態をつきながら椅子を戻す。




「笑うなよ、

「だってあんまり綺麗にこけるから、ふふ」

「・・・」

「顔赤いですよ、はんちょう」

「うるせーよ」

「ふふふ」

(やっぱすっげー可愛い・・・)



さて、いつ俺の気持ちを伝えようか。
頭をさすりながら無い勇気を振り絞る決意をするが、こいつが視界に入るだけで脈が速くなるのを考えると、

・・・やっぱりそうそう伝えられそうにない。






  

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