がやってきて早1ヶ月。

今日も今日とて終わらない書類を片づけながら、今日も今日とてぱたぱたと走り回るを盗み見る。



ー、ちょっといいかー」

「はい!」

「コーヒー頼むー」

「はいはーい」

「おーい、

「はーい!」



呼ぶとわんこのように、ぱっと明るい返事をして白衣を翻しながら駆けつける。
尻尾があったらきっとちぎれんばかりに振ってるんだろうなぁ。


「悪いなぁ、

「ありがとな」

「どういたしまして。皆さんもお疲れさまです」


嬉しそうにはにかむに男どもが癒されている光景が目に入る。
っていうか、お前ら本当は用もないのにわざわざ作ってることバレバレだぞ。

まぁは人懐っこくて、いつもふわふわした笑顔を振りまいているので、癒されたいと思う気持ちもわからんでもない。
花の少ない科学班でが可愛がられる理由なんて言わずもがなだろう。
時々頭を撫でられては、はにかむ彼女はまさしく科学班の癒しである。

中にはのことをまだ子どもだと思っているやつも多く、妹のように扱われ、可愛がられている。(俺も人のこと言えないがな)


最近ではリナリーとも仲良くなったようで、たまに二人でコーヒーを入れてくれたり、ソファで談笑している姿を見るのが科学班ではブームになりつつある。
二人も二人で、数少ない女友達ができたのが嬉しいのか、リナリーが任務から帰ってくると「おかえりっ!」「ただいま!」と抱き合う姿を見ることも多い。

ついでにいうと、そこにミランダやジェリーが加わって女子会なるものを開くことも多々ある。

二班と三班の班長からの文句・・・もとい注意が少なくなったのも、これが理由だろう。
イラついているのをうまい具合にたちが和らげてくれるのだ。

・・・に色目使うのはやめてほしいが。



「リーバー班長!飲み物いかがですか?」

「おお、頼む」


はコーヒーを入れるついでに、いつも俺にも飲み物を入れてくれる。
まぁ入り口から近いとか、初めに会ったのが俺でそれ以来面倒をよく見てやっているからというのもあるが・・・正直嬉しい。

俺の好物でもある炭酸を特別に入れてくれるのも、他の班員に妬まれようが恨まれようが止める気なんてさらさらない。



「コーラでよかったですか?」

「おう、さんきゅ」


礼を言うと(いつもにこにことしているが)嬉しそうに頬をゆるめる。

室長からもらったという(これでも一番小さなサイズなのに)少し大きめの白衣から出る指先も、引きずるスレスレの裾も、俺らと違ってころころと変わる白衣の中の服装も、女の子らしさを強調している。

本当はちゃんとサイズを計ってピッタリの服を作ってやってもいいんだが、皆黙っているのはそのままがいいという願望だろう。
科学班の間ではそれは言わない約束。と黙認されている。
俺もその約束を守っているあたり、何にもいえないんだろうが。

の頭をぽんぽんと撫でる俺の手を気持ちよさそうに受け入れる。
この表情がなかなか好きだ。


「お前って犬みたいだなぁ」

「・・・誉めてます?」

「ああ、めっちゃくちゃ誉めてる」

「うーん・・・」

複雑そうな顔をするに、くっくっと笑うと「子ども扱いしないでください」と少し頬を赤くさせてむくれた。

子ども扱いしているつもりはないんだけどな。
俺がこんなことするのは、お前が可愛いから、なんだが。

そんなことをいったら、はどんな顔をするんだろうか。

驚くか、慌てるか、困るか・・・喜んでくれると嬉しい、なぁ。



口に出さない俺は、まだこの関係を味わっていたいからか、臆病だからか。
部下にこんな感情を抱くのはどうかと思うが、俺だって男だ。
ヘタレと言われようが、万年仕事漬けだろうが、栄養失調気味だろうが、26歳の男である。


「班長、ちゃんとご飯食べてますか?」

「あー、まだこの科学式が終わんなくってな・・・」

「何か持ってきましょうか?」

「いや、終わったら食堂に行くさ。もうそろそろ、デリバリーはジェリーに怒られる」

「ふふ、そうですね」


冗談めかして言うと、もくすくす笑みをこぼす。

ああ、まじで可愛いなぁ。
ここ数年色恋沙汰というかその影すらもなかった俺にとって、は本当に楽園を生み出してくれる。




「あぁ!倒れる前に言ってくださいって言ったじゃないですか!!」

ばたん。と机に突っ伏した班員をみつけ、会話を中断し、ぱたぱたと介抱しにいく。

翻る少し大きめの白い白衣が、眩しく感じた。





・・・俺もそろそろ末期かもしれん。








  

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