「ごめんなさい」


夜。
彼を呼びだして、少し話した後、頭を下げた。



「好きな人が、いるんです」

「・・・そっか」


私の言葉に、彼は笑って頭を掻く。

その反応に少し胸がずきんと痛んだ。
目の奥に熱いものがこみ上げる。声が震える。



「あの、すっごく嬉しかったです。好きになってくれて嬉しかった、です」

「うん」

「ありがとう、ございました」


泣くな泣くな。
私が泣くなんて意味が分からない。

そもそも彼はなんで笑ってくれるんだろう。
もっと責めて欲しい。
そうすれば、私も少しは楽なのに。

なんて、やっぱり私は自分のことばっかりだ。



「・・・なぁ」

「はい」

「告白って、さ、はじめて?」

「・・・・学生時代、以来です」

「そか。あの後、俺のこと意識してくれた?」

「・・・・はい、」

「ふふ」


笑う彼の顔は、切なくて悲しそうで、でも嬉しそうで。
私の視界が滲んで、彼の顔が見えなくなっていく。


「少しでも、俺のこと考えてくれたなら本望さ」


ありがとう。と笑うディグリオさんに、私は我慢できなくなった。
せき切ったように涙と一緒に言葉があふれ出す。

私の涙にディグリオさんは驚いて「お、おい」と慌てだした。



「、ずっと」

「え?」

「ずっと、考えてましたよっ、もう心臓潰れるかと思いましたよっ」

「・・・

「わ、私がどれだけ、でぃ、ディグリオさんのこと、考えたとっ、お、思って・・・
 ずっとずっと、頭から離れなくて、わ、笑い事じゃ、ないです」


あふれる涙を手でごしごしと拭うけれど全然止まってくれない。
ずずっと鼻をすすって、何とかちゃんと聞こえるように声を絞り出した。


「う、嬉しかったんです。本当です。・・・あんな風に真剣に告白されたの、初めてだったから」

「そっか」

「・・・ありがとうございます。私のこと好きになってくれて、ありがとう」

「うん。俺も、素敵な恋を、ありがとう」



そういって私の涙を親指で拭ってくれた彼の目には少し涙が浮かんでいた。


「俺さ、一生懸命なが好きだった。それと、の笑顔も」

「・・・」

「そんで、その一生懸命を俺に向けてくれて、嬉かった。三日間でも、君を俺でいっぱいにしてくれて、すげー嬉しい」


こくこくと頷くと、ディグリオさんはにっこり笑ってくれた。
その後少し言いづらそうに、視線をはずして私に問う。


「・・・な、が好きなのって、リーバー班長?」

「え・・・な、なんで!?」

「うわ、当たりかよ」

「ご、ごめんなさい・・・」

「いや謝んなって」


ディグリオさんはマジかー、ショックだわ。と苦笑いする。
そして少しの間うなだれた頭を、ふっとあげて私をみた。



「あのさ、俺今から最低なこと言うけど、いい?」

「え、ど、どーぞ」


今のこの状況に似合わない台詞に少し驚いたが、おとなしく首を縦に振った。
申し訳なさそうに苦笑いをするディグリオさん。


「・・・俺、待ってるから。が班長とくっつかない限り、俺は待ってる」

「ディグリオさん・・・」

のこと応援したいけど、
 正直、俺は、その、うまく行かないで欲しいって言うのが本音だし、まだのことが好きだから」

「・・・えらく、ぶっちゃけますね」


呆然とした私に、彼はにっと笑って胸を張った。

「恋なんてそんなもんだっつの!」



ああ、そういうものか。

好きな子にそんなこと言うか、普通。と思ったけど、むしろ彼の本音を聞けたような気がして、ふふっと笑ってしまった。



「・・・あ、でも、に幸せになって欲しいっていうのも本当だから」


ーだから、最後に俺の好きなの笑顔が見たい。


なんて、恥ずかしい台詞を吐くから、うまく笑えたかわからないけど。
私にこんな素敵な体験をさせてくれた彼に、もう一度心からお礼を言った。














それは、書類がやっと片づいて、何か食べようと食堂へ向かっている時のこと。
廊下を歩いていると、下の階にと二班のディグリオ・バッレの姿が見えた。
何か話しているようだったが、聞き取れない。
ただ二人の表情から、真剣な話をしていることはわかった


その場から離れようと思ったが、なんとなく離れがたくて、じっと様子を伺ってしまう。

話をしていくうちに、が泣きだし、ディグリオが嬉しそうにはにかむ。

・・・もしかして、これはあれだろうか。



告白、とか、いうやつじゃないだろうか。





話し声に耳を傾けると「ありが・・」「・・、好き・・・」とか聞こえてくる。


ああ、成立したのか。


頭の中で冷静に思った。

ここ2、3日、二人がなんかよそよそしいのはわかっていた。
の仕事の調子が悪いのも、ディグリオが時々に優しい笑顔を向けるのも。

目の前に広がる嬉しそうなの顔も、幸せそうなディグリオの顔も、俺の網膜に焼き付いていく。

頭では状況を把握しているのものの、俺の心は冷めきっている。



こんなことなら、俺も早く言えばよかった。

そうしたら望みはあったかもしれないのに。

関係を楽しむとかそんな悠長なこといってる場合ではなかった。



・・・は、情けない。



後悔なんざしても遅ぇし、もうはディグリオのものだ。

そもそも俺にそんな勇気があったのかすらわからない。


もう特別にレモンソーダをいれてくれることはなくなるのだろうか。

リーバー班長!と白衣を翻して後ろをひっついてくることもなくなるのだろうか。

空いた時間にご飯を食べに行きましょうと、俺の体を気遣って誘ってくれることはなくなるのだろうか。




女々しい思考を繰り返す俺は自分自身にため息をつく。


俺、のことマジで好きだったのか。

今更になって思うのは、遅すぎるし、情けなさすぎる。



「はぁ・・・」





もう一度ため息をついて、そのまま手すりに寄りかかった。


「だっせえ、俺」



もうが側にいなくなるんだと思うと、思ったより、きつくきつく、胸が締め付けられた。






  

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