私は、リーバー班長が好きだ。

ディグリオさんに告白されて、嬉しかったけど、でもつき合えなかったのは班長がいたからだ。




どこが好きとかそんなのもうどうでもいい。というか、わからない。


でも、無精髭も、白衣も、タレてる眼も、綺麗な蒼眼も、笑顔も、室長に怒鳴ってるのも、皆を心配する姿も、
全部にきゅんとするし、全部に頬がゆるむ。



昨日の件をきっかけに、その気持ちに拍車がかかってきた。
もっともっと近づきたい。役に立ちたい。顔がみたい。

もっと言えば抱きつきたいし、ちゅーもしたい。


ディグリオさんと別れてから何時間か
仮眠をとって、目が覚めた。
しばらく布団の中で悶々とそんなことを考えていたが、ちゃんと自重は知っているはずだ。
仕事もするし、口を滑らさないように気をつけよう。


でも、それでも好きって気持ちは抑えられない。

きっとこれが恋ってやつなんだろうなぁ。



「リーバー班長、おはようございます!サイダーいかがですか?」

「おー、おはよう。って、え、・・・お前、・・・あれ?」

「どうかしました?」

「あ、いや・・・サイダーもらうわ」

「はーい」



身支度をすませてから科学班を見渡すと、班長はもう席に着いていた。
・・・「もう」というより、ずっと着いていたんだと思うけど。

元気に挨拶をすると、班長が驚いたように私を見る。
そして、首を傾げながら何かを考える素振りを見せたが、どうしたんだろう。

今日の服、変だったかな。
自分の服を確認するが、これといっておかしいところは見あたらない。
まだ不思議そうな顔をしながらも、リーバー班長はサイダーを頼んだので素直にその言葉に従った。


「はいどうぞ。班長、ずっと起きてたんですか?」

「ああ、やらなきゃいけない分は終わったんだが、なんか眠れなくてな」

「あんまり起きてたら、また婦長に怒られますよ」

「はは、気をつけるわ」


サイダーを入れて持ってくる間に、班長はいつもの班長に戻っていた。

「気をつける」なんてもう何十回も聞いたけど、全然気をつけてない。
ご飯は少し無理に誘わないとなかなか行ってくれないし、寝てるところも実は見たことない。
机に突っ伏して寝ている班員さんを班長さんたちが起こしているのはよく見かけるのに。

インテリだけど、やっぱり体力あるなぁ。


書類を書くのに邪魔だったのか、白衣を腕まくりしているので、リーバー班長の腕が露わになっている。
骨ばった肘と、長い指が連動して動いているのをみると、なんかドキドキする。
あれ、なんかこれ変態っぽい。



「ん?どうした?」

「あ、い、いえいえ、なんでもないです」


お盆を抱えて(リーバー班長の腕を見つめながら)ぼーっとしている私に班長が顔を上げた。
目が合うとなんだか急に恥ずかしくなって、心臓が高鳴る。
うわうわ、なんだこれ。ぎゅうってなる。


?」

「わ、私、コーヒー配ってきます」

「お、おお」


それっぽい理由を付けてその離れた。

なんだこれ。なんだこれ。

好きなのに、ずっと見てたいのにこれ以上一緒にいたらやばそうだ。
ああ違うか。好きだから、か。


だからこんなにどきどきするんだ。











それから数日。

私の気持ちは変わらず、むしろ前よりも成長している。

でもその分、心臓が痛くなることも増えたし、不安も増えた。
嫌われたら嫌だなぁとか、さっきの発言はよくなかったかなぁとか、前までは気にもしないようなことを気にするようになった。
班長はそんなこと思わないってわかっていても、なんだか心配になる。

恋って大変だなぁ。



!ただいま」

「リナリー!おかえり!」


先日から任務に行っていたリナリーが帰ってきた。
科学班の皆もおかえり、と声をかける。
久しぶりに見たリナリーにほっとして駆け寄り、手を取った。


「怪我ない?」

「平気よ。あ、、時間があったら久しぶりにお茶しない?」

「えーっと、」


可愛くぽんと手をたたいたリナリーの提案に、ちらりとリーバー班長の様子をうかがう。

「ああ、行ってこい。久しぶりだろ?」

「やった!ありがとうございます!」



そのまま手を繋いで談話室に向かった。

リナリーは私より年下でまだ未成年だけど、とても気の合う友達だ。
教団に女性が少ないこともあるけど、一番の仲良しな気がする。何でも話せる女の子。
リナリーも任務で辛いことがあった日や、悩み事がある時は泣きながら話すこともよくあった。


談話室のソファに座って他愛のない話をする。
リナリーはこういう時間が一番好きだって言ってた。

こういう時間が任務の時「ホームに帰ろう」と思える元気になるし、幸せだって思えると笑って話をしていたのはいつだったか。




、お仕事の方は慣れたの?」

「うん!やりがいあるし、楽しいよ」

「でも、あんまり眠れてないでしょ?」

「うーん、まぁ眠いけど・・・でも、皆優しいし、リーバー班長もあんまり無理すんなって言ってくれるよ」


仕事が多い日は寝れないときもあるけれど、他の人に比べれば、比較的睡眠時間の多い役割だ。
私に手伝えないことも多いし、かえって邪魔になりそうなときは大人しくしている。

それに疲れてもリーバー班長が「お疲れさん」って笑ってくれるから、頑張った分だけ「頑張ってるな」って声をかけてくれるから、
眠気とか疲れなんて吹っ飛んでしまうんだ。


恋って不安で大変だけど、嬉しいこともいっぱいある。



「・・・、あなた」

「ん?」


思い出し笑いでもしてしまったか、と慌てて顔を引き締めるが今度はリナリーがふふふっと笑って私に顔を近づけた。



「もしかして、恋、とかしてる?」

「・・・・え、ええ!?」


耳元で内緒話のように囁いたリナリーから、ばっと顔をはなすと、彼女は上目遣いで微笑む。
可愛いなリナリー・・・ってそうじゃなくて。

そうじゃなくて!



「な、なんで、わか・・・っ!?」

「やっぱり、しかも班長でしょ」

「っ・・・・・」


えすぱーなのか、リナリーさん。
そうじゃなかったら、なんて敏感なセンサーなんだ。


「だって、表情が違うもの。それにリーバー班長の名前呼ぶとき、なんだか優しい声してたわ」

私の心を見透かしたように、得意げに話す彼女はやっぱり女の子だ。
女の子は恋とか恋愛に敏感だってジェリーさんが言ってた。

じゃあもしかしてジェリーさんにもバレてるんだろうか。
ジェリーさんも女の子の心を持ってるっていってたもん。

というより私が顔に出しているんだろうか。
ディグリオさんにもバレたし、気づかないうちに班長が好き好きオーラが滲み出ているのだろうか。
そう思うと少し不安になってきた。どうか、班長にはバレてませんよーに!


「・・・な、内緒にしてね」

「ふふ」

誰にも聞こえないように、こそこそとリナリーに耳打ちする。
リナリーはそんなことしないと思うけど、一応だ。一応。


「告白しないの?」

「こ、こくは・・・!?・・・っし、しないっていうか、・・・勇気がないっていうか」

「班長のこと好きなんでしょ?」

「うん・・・好き。すっごい好き・・・・・・だけど、」

「じゃ、気持ちだけでも伝えてみたら?前に進まないと!班長だって今はそうじゃなくても意識してくれるかも!」

「そう上手くいくかなぁ」

「このまま好きになりすぎたら、大変なことになりそうね」

「うう・・・」


だって好きなんだもん。しょうがないんだ、こればっかりは。



告白。

告白、かぁ。

班長の前に立って「好きです」っていうのかぁ。


・・・いやいやいや、無理。無理。
想像しただけでもなんか爆発しそう。

でもリナリーの言うとおり、これ以上リーバー班長を好きになってしまったら、きっと我慢できないだろう。
もっと近づきたいって気持ちが今でも押さえきれないのに。

ここ数日で、冷めるどころかますますヒートアップしている。
思いっきり抱きついて、ぎゅうってしたいって思ってる。

変態みたいな思考が止まらない。
私って思ったよりも、単純なのかもしれない。

今までは恋とか愛とか、友情と何が違うんだって思ってたのに。
一ヶ月もすればふっと冷めてしまうようなものだと思っていたのに。

違うんだ。
論理的には言い表せない、何かがあるんだ。

恋ってすごい。




「班長にバレてないかなぁ・・・」

「多分ね。そういうの疎そうだし」

「そっか・・・」


ほっとして、息を吐くとリナリーが「可愛い、」と頭を撫でてきた。


「もー、私の方がお姉さんだよ」

「でも、可愛いもの」

「・・・恥ずかしいから、やめてください」

「はいはい」


これじゃどっちが年上かわかんないよ。
微笑むリナリーはとっても大人っぽくて可愛く見えた。



っ、リナリーっ。おっす!」

私たちの内緒話が気になったのか、ラビがソファの後ろからひょこっと顔を出す。
肘をソファの背もたれに預けて興味津々ににっこり笑っていた。


「なんさ?なんの話?」

「わ、ラビ!え、いや、な、なんでも」

「怪しい〜」


ブックマンの血が騒ぐのか、にやにやしながら何々?と私を問いつめる。
一瞬冷や汗をかいたが、まぁ問いつめると言うことは聞かれていなかった、ということで一安心だ。
ラビに知られたらどうなることか・・・



「ら、ラビには内緒!」

「えぇーっ」


不満そうなラビを横目に、そろそろ仕事戻るねと二人に行って談話室を出ようとする。
これ以上ここにいたら、ラビしつこいんだもん。



「気になるさー・・・」

は可愛いわねって話よ」

「あー、それは同意しとく」

「リナリーっ」

「ふふ」






  

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